守護騎士たちは人間でも使い魔でもない、魔法によって生み出された疑似生命。
その言葉に、フェイトはなにげなく、自分と同じようなものなのかと問う。
フェイトは、「母」プレシアが亡くした実の娘・アリシアを元に作成された人造生命体であり、
かつては母に「失敗作」呼ばわりされたこともあり、そのことをどこか気に病んでいる部分があった。だが、そんなフェイトをクロノとリンディは静かに叱る。
フェイトは生まれ方が少し違うだけで、命を受けて生み出されたまぎれもない人間であること。
検査の結果でも確かにそう出ていることを告げる。
守護者たちは本来、純粋なプログラムにすぎないはずで、意志疎通のための対話能力や人格を持たされているのは間違いないが、主の命に逆らうことなど決してないし、主の命令や望みなしに行動するということは、過去のデータからは考えられない。
幾人もの主の元を渡り歩き、闇の書とともに、ごく短い「生」と永い眠りを繰り返してきた守護騎士たち。現在の主のもとで、なにかが変わったのかもしれない。
ともあれ、闇の書はジュエルシードの時に匹敵、あるいはそれ以上の危険物。
管理局としては、守護騎士の探索と同様に、主の所在の割り出しを急ぐこととする。
闇の書完成前であれば、主は一般の魔導師に過ぎないはず。
それを押さえれば迅速に事件は解決するはず…と、今後の方針が決定する。
ミーティングが終了し、なのははフェイトに見送られて家へと帰る。
フェレットモードのユーノと二人の帰り道、なのはは闇の書の主のことを思う。
と、携帯にすずかからのメールが着信する。
メールには、「今夜は友達が泊まりに来てる」という楽しげなメッセージと、
すずかとはやてが並んで写っている写真が添えられていた。
翌朝。はやてはすずかと月村家メイドのファリンに見送られ、メイド長ノエルの運転する車で自宅へと送ってもらうことになった。
連絡を受け、主の帰りを待つシャマルとシグナム。
シグナムたちは主を待ちつつ。
はやてはノエルとの談笑のうちに。
それぞれに、出会いとこれまでの日々を思い出してゆく。
半年前のはやての誕生日、第一の封印を破り、主の手に収まるべく起動した闇の書。
それは守護騎士ヴォルケンリッターの目覚めの時でもあった。
新たな主のもとにひざまずき、忠誠の言葉を告げる騎士たちを迎えたのは、
驚きのあまり気絶してしまったはやてだった。
騎士たちの手によって、なんとか病院へと運び込まれ、ベッドの上で目を覚ますはやて。
主治医である石田医師ははやての無事を喜ぶが、騎士たちに対する疑念をあからさまにする。
困っている様子の騎士たちを見て、はやてはなんとか「外国から来た自分の親戚」とその場をごまかす。
家に戻り、改めて状況を確認する一同。
はやては第一の覚醒の際に「闇の書の声」を聞き、自らが受け取った力と使命を漠然とながら知っていた。闇の書の主は、すなわち守護騎士たちの主。
主は守護者の面倒を見るものと、騎士たちの衣食住の世話を申し出るはやて。
「幸い住むところはあるし、料理は得意や」と、騎士一同の衣服購入を申し出る。
とまどいつつも主の命に従い、はやての世界で、はやての家で家族のように寝食を共にする暮らしが始まる。
はやては一同に、ごく一般的な家事手伝い以外の命は一切下さず、むしろ騎士たちの世話を楽しんですらいるようだった。元々順応性の高いシャマルは、瞬く間にはやてとともに家事全般をこなすお手伝い係に。当初は新たな主にさして興味を示さなかったヴィータも、自分を可愛がり、いろいろなことを教えつつも甘やかすはやてに大いに甘えるようになり、ザフィーラは物静かで頼もしいペットとして、シグナムは一家を見守る立場として、家庭内での役割が決まっていった。
はやてを抱きかかえ、テラスから夏の星を見上げるシグナム。そんななにげないある夜、シグナムははやてに問う。闇の書の蒐集を行わなくて、本当に良いのか、と。
闇の書の真の主となれば、はやては絶対たる力を手にいれ、それを自在に使うことができる。
不自由な足を治すこともたやすいはず。そう告げるシグナムに、はやては笑って返す。
自分が闇の書の蒐集を命ずれば、なんの関係も罪もない誰かに、迷惑をかけることになってしまう。自分のわがままで人に迷惑をかけるのは良くない。
そして、自分は今の暮らしになんの不満もない…と笑う。
両親は亡くしたが、父の友人が遺産管理やさまざまな保護をしてくれている。
住む家もあり、当面の暮らしに不安もなく、なにより騎士たちがそばにいてくれる。
「現マスター・八神はやては、闇の書にはなにも望まない」
自分がマスターでいる間は、闇の書のことは忘れて、ただうちで一緒に、仲良く暮らしていてくれればいい。そんな約束を求めるはやてに、シグナムは騎士の誓いを立てる。
異変は、冬が近づく秋口に起きた。
不自由な足の治療のためにはやてが通っていた病院で、シグナムたちを「はやての家族」と認めた石田医師が、はやての病気の真実と、現在の進行状況を告げたのだった。
原因不明の麻痺。足先から始まった麻痺がいまや膝を越えて、少しずつ上に上がってきていること。この数ヶ月は特に進行が早く、このままでは内臓機能の麻痺…つまり、「死」が迫ってきているということ。
遅まきながら、その事実を告げられたシグナムとシャマルは真実にたどり着く。
「闇の書の呪い」
闇の書の、抑圧された強すぎる魔力が、リンカーコアが未成熟なはやての体をむしばみ、
健全な肉体機能どころか生命活動さえ阻害している。
それが現在の下半身麻痺という結果につながり、命さえ奪おうとしている。
そして、第一の覚醒を迎えたことで、それは加速した。
まるで、闇の書の完成を急かすかのように。
はやての危機に、涙ながらに激昂するヴィータ。
シャマルの治療魔法も効果がない病気に、なすすべのない一同。
シグナムたちにできる、たった一つの治療法。
それが闇の書の完成であり、はやてを「闇の書の真の主」にするということだった。
愛しくも優しい主、はやてのために。
守護騎士一同、騎士の誓いを破ってでも、主を救う道を選ぶ。
主への不忠と不義理を心で詫びながら、騎士たちの闇の書のページ蒐集の戦いが始まったのだった。
一方、管理局本局では、クロノとユーノ、エイミィが応接室を訪れていた。
クロノがユーノに闇の書についての調査を依頼し、そのための協力をクロノの師匠であるリーゼに依頼するためだった。
陽気な二人の師匠、リーゼアリアとリーゼロッテの双子姉妹に歓迎を受けるクロノ。
若い娘の外見ながら、グレアム提督の若い頃からの使い魔である二人は、グレアムとともに数十年を生きている長命な使い魔であり、その魔法・戦闘技術は一流のものだという。
通常業務があるため、捜査には協力できないリーゼたちだったが、愛弟子クロノのため、協力を惜しまない姿勢を取る。
そして、クロノから二人への依頼は、管理局の巨大データベース「無限書庫」におけるユーノの資料探索をサポートしてほしいというものだった。
